【意味が分かると怖い話】マジシャン
俺は妻によるマジックのおかげで飯を食えている。
かつて俺はマジシャン界の鬼才と呼ばれ、現在の妻をパートナーとして世界中を飛び回っていた。
俺達のマジックは自分達の体を使ったド派手でクレイジーなのが売りだった。
しかしそんな俺達も今では町から町へ転々と日雇いでマジックをする。
流浪の貧乏マジシャンにまで落ちぶれてしまった。俺達がマジックで失敗したのはたった一度だけだ。
自らの手足と首を順番にバラバラにしていくとても危険なマジック。最初で最後のあの失敗のあとも妻はずっと一緒にいてくれる。
そしてショーが始まる前は必ず妻とキスをする、それが俺達の合図だ。
今日も小さなショーが始まった。
子供騙しのトリックで驚く観客の乾いた笑い声が聴こえてくる。
あの一度の失敗のおかげで、昔できた高度なマジックの感覚を俺はどうやっても取り戻せなくなった。
いよいよショーも終盤、最後は多少派手にしないとおひねりはもらえない。
この時ようやく妻と一緒にステージに立つのだが、妻が俺の目を見ることは無い。
絶対に失敗しないそのマジックで、本物の刃から伝わる冷たい振動を腕に感じながらショーは幕を閉じた。